「森の匂い」(会員の A.Kiharaさんからの投稿です)

森守会の定例活動で森林浴の恩恵にあずかれることは何より嬉しい。
からだの隅々まで洗われるような気がしています。
特にスギやヒノキの針葉樹林に入ると、木の精が放つ匂いは一段と増します。一方、広葉樹林はそれほど強くはありませんが、樹種によって違うさまざまな匂いがします。
木が朽ちるときの湿った匂いもあります。

青梅の広葉樹林の中ではコナラの立ち枯れが目立っています。もう樹冠の葉はなく、樹肌にキノコが生えています。いつかは倒れるのでしょうが、そのままにしておくと危ないし、枯死が広がります。

原因は、カシノナガキクイムシ(カシナガ)が繁殖することだと教えてもらいました。
この虫は、幹の中に棲みついて、成虫になると羽化し、別の樹幹に孔を掘ってもぐりこみ、そこで産卵して幼虫を育て、やがて成虫になるらしい。
コナラを枯らすのは、この虫が運ぶナラ菌という菌類です。ナラ菌が樹幹に入ると、その繁殖を防ぐためにコナラは一種のセルロースを出して封じ込めようとする。その物質のために樹木が水を吸い上げる道管がつまり、枯れてしまうというメカニズムです。

感染拡大を防ぐために、枯れたコナラを切り倒すのは傍で見ていてもたいへんです。
被害は若い木よりも年を経た大径木に多く、かかり木になりやすく、木質が堅いためチェーンソーで伐っても簡単には倒れません。私は直径30センチぐらいの枯れたコナラを手鋸で伐ったことがありますが、堅さはスギやヒノキどころではありません。
鋸は、なんとか芯部まで達しても、木の重みで挟まれ、くさびを打ち込んでもらってようやく鋸が抜けたことがありました。

ナラ枯れを防ぐためには、感染した樹木を切り倒して排除するやり方の他、樹幹に薬剤を注入して殺菌する方法、羽化したカシナガが入れないように樹木に粘着剤を塗ったり、テーブなどを巻いたりする方法、フェロモンでカシナガをおびき寄せてとらえる方法などがあるそうですが、どれもたいへんそうです。
しかし放っておくと、「風の谷のナウシカ」の腐海の森のように菌類が大繁殖してしまうのではないかと心配してしまいます。


風が弱い日に針葉樹林に入ると、私は鼻の粘膜が刺激され頭が痛くなることがあります。
そんなとき、針葉樹林には殺菌力の強い揮発性物質のフィトンチッドが満ちているのだと感じます。
仮に針葉樹と広葉樹が混じって生育すると、カシナガが簡単に別のコナラ類を見つけ出せないようになり、濃厚なフィトンチッドでナラ菌が殺菌されるかもしれない。
針葉樹林の匂いはこんなことを私に想像させます。

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